#3. ホテルグランシェール花巻と銀河鉄道散歩

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夕食の後、ホテルに戻った。

ホテルグランシェール花巻

この日の宿は「ホテルグランシェール花巻」という場所に取った。

ホテルのウェブサイトによれば”当ホテルは日本を代表する童話・詩人作家である宮沢賢治の親戚が創設した宮沢賢治さんとゆかりのあるホテルです。”とのことだ。

ゆかりと謳うには若干関係が薄いような気もするが、宮沢賢治のことをたいへん親しみ深く思っているのが分かる。「賢治さん」と呼ぶのは、県民の習わしなのだろうか。

ホテルのロビーには、賢治の著作や、童話の場面を再現したオブジェなどが飾られていた。さらには「宮沢賢治探検隊本部」と題した、小さな博物館のような一角もあった。ホテルにこんな場所があるとは思わず、旅人にとっては嬉しいサプライズだ。

加えて、後にも述べるが、朝食が非常に美味しかった上、それほど高くなく泊まれたので、このホテルのことはすっかり気に入ってしまった。

グランシェール花巻_ロビー_2408岩手
「ホテルグランシェール花巻」のロビーにて

未来都市銀河地球鉄道

部屋に戻って少し休んだ後、再び外出した。「未来都市銀河地球鉄道」を見に向かうためだ。

「未来都市銀河地球鉄道」は、高さ10m、長さ80mのコンクリート壁に描かれた巨大な壁画だ。特殊な塗料によって夜間になると光を放つ仕組みになっている。

花巻駅からは徒歩で行ける。道中、街灯は少なく、暗い。

歩くこと数分、暗さに目が慣れてきたころ、その絵は唐突に現れた。描かれた点と線が、想像以上に強い輝度と彩度で、惑星や鉄道車両、無数の星々を形作っていた。 キャンバスであるコンクリート壁は完全に闇に溶け込んでいて、図像だけが宙に浮かんでいる。

じっと見つめていると、次第に距離感は曖昧になり、物体同士の境界、ひいては自他との境界すら次第に失われていくような感覚に陥ってくる。自分自身が画の中に吸い込まれてしまったような、不思議な心地だ。賢治が思い描いた宇宙の一隅に、取り込まれてしまったような……。

僕はしばしの間、その幻想に浸った。

未来都市銀河地球鉄道1_2408岩手
「未来都市銀河地球鉄道」にて
未来都市銀河地球鉄道2_2408岩手
「未来都市銀河地球鉄道」にて

旅人の朝食

翌朝、僕はホテルのレストラン、「Le Aube」で朝食を取った。

かつての僕は、旅先での一日を長く過ごすため、できる限り早く出発するスケジュールを組む(始発に乗るとか)ことが多かった。その場合、宿で朝食を取ることはできない。

最近はそのような強行軍はまれになった。

理由はいくつかある。一つは、日本全県をひと通り巡るという目標が、ひとまずの形で果たせたこと。そこまで急いで距離を稼ぐ必要がなくなったのだ。そしてもう一つは、そうするだけの体力がなくなってきたこと(この理由は大きい)。

肉体の衰えによって無理が効かなくなったことは、一見悲しいことのように思える。だが、旅のスタイルが変わった自体は、何も悪いことばかりではなかった。宿で朝食を取ることの利点を見直す機会にもなったのだ。

「Le Aube」のようなホテルのレストランにおいては、地場の食材・郷土料理が提供されることが少なくない。これは嬉しいことだ。旅先において、その地の名物にありつくのは、案外難しい。観光客向けに妙なひねりを加えたメニューの店しか見つからなかったり、料金が高すぎたり…。その点、ホテルでは一番オーソドックスなものを出してくれる。

しかもビュッフェ形式であれば一品あたりの量を調節できるから、品数も多く食べられる。

味のクオリティも悪くない。僕の経験ではホテルの朝食でハズレを引いたことはほとんどなく、どこへ言っても値段相応以上のものが出てくる。

以上のようなメリットが分かってくると、かつては割高なように感じられたホテルの朝食も、今ではコストパフォーマンスに優れた選択肢だ。

「Le Aube」の朝食は、そんな僕の期待を十分以上に満たすものだった。岩手県産の食材は滋味深く、なんだか体に染み入ってくるような優しさだった。

この日は普段よりも余裕のあるスケジュールにしていたおかげもあり、朝の時間をゆったりと寛いで過ごすことができた。

まるでレストランにいながらにして、花巻の寛容な大地に抱かれるような心地だった。大げさなようだが、素直にそう感じた。

グランシェール花巻_Le Aube_2408岩手
ホテルグランシェール花巻 レストラン「Le Aube」にて