一夜が明けた。
未明に観戦したバスケットボールの試合が、現実だったのか、はたまた夢だったのか判然としない。
僕は宿泊していた温泉施設を出て、再び長浜駅に移動した。手元の記録によれば、高月駅を7時24分に出て、7時35分に到着している。

セブンイレブン長浜町公園店
昨夜の宿はあくまで温泉施設だったため、朝食の提供はない。したがってまずは腹ごしらえをする必要がある。
まだ朝早い時間帯ゆえ、開いている飲食店は少ない。ちゃんと探せばなくはないだろうが、僕はあえてコンビニに向かった。
調達したのはサンドイッチと甘いパン、そしてホットコーヒー。コンビニで一食分をまかなうとなったとき、僕はこうした組み合わせを選ぶことが多い。
特別美味しいというわけではない。だがこの軽やかなチープ感が妙に落ち着くのだ。旅先の朝にだけ許される、ちょっとした儀式のような感覚がある。
琵琶湖畔
僕は朝食が入ったレジ袋を手に下げ、琵琶湖に向かって歩いた。
途中、長浜城を遠目に眺めた。朝の光の中で、きりりとしまった表情がなかなか格好良い。
僕は琵琶湖が見えるところまで足を進めた。手頃な気を見つけて腰を下ろし、朝食をとることにした。
8月の朝。陽射しは強いが、木陰にいれば十分に過ごしやすい。
周囲には、地元の方だろうか、湖畔を散歩している人や、僕と同じように湖を眺めて過ごす人の姿がちらほら見える。
木漏れ日が心地よく差し込んでくる。
旅行の最中というのは、えてして「どこかへ行かねば」「何かを見ねば」と、自らを急かしがちだ。
だがこの時間帯は、観光地はどこも営業前で、やることがない。
それゆえに、「せねば」というある種の呪いから自らを遠ざけておきことができるのだ。
眼の前には琵琶湖が茫洋と広がっている。波は穏やかで、風も静かだ。海のようでいて、海とは異なる。時折、小さな船がゆっくりと湖面を横切っていく。
朝食を食べ終えた後も、僕はしばらくの間その場に留まっていた。

湖畔の主
湖に沿って辺りを散策していると、一匹のネコに出会った。このあたりに住みついている様子だ。
近づいても警戒したり、逃げるような素振りは皆目見せない。むしろ「我こそがここの主である」とでも言わんばかりのい顔をして、余裕のたっぷりに寛いでいた。
写真を撮ろうとカメラのレンズを交換していると、そのネコは実に堂々たる足取りでこちらに近づいてきて、僕の足元に体を擦りつけてきた。
「俺のことを気に入ってくれたのか?」などと一瞬嬉しくなりそうになる。
だがこれは、縄張りに侵入してきた者に対して、自分の匂いをつけて縄張りを主張するための、単なるマーキング行為に過ぎない。
そうと分かってはいたものの、悪い気はしなかった。(後で調べたら、愛情表現のこともある、とのことだ。)
望遠レンズが役立たなくなってしまったので、僕はその場の芝生に腰を下ろした。するとネコは隣で無防備に寝そべり、すやすやと眠り始めた。
夜行性の彼にとっては、もう眠たい時間なのだろう。
一方の僕も昨晩は熟睡できたとは言い難い。ぼんやりと体に残る眠気にまかせ、彼の気配を感じながら、しばらくの間ぼおっとして過ごした。
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しばらくすると、彼(あるいは彼女)は前触れもなく立ち上がり、あっさりとこの場を去っていった。
僕のことはもう飽きられてしまったようだ。少しさみしく感じた。
僕は気を取り直して、再び歩き出した。長浜ヨットハーバーでは、何枚かの写真を撮った。
湖北の朝は、穏やかで親密な空気が流れていた。
