毎年、夏の休みにはどこか遠くへ行くことにしている。
岩手県へ
近年の猛暑の具合からして、行くならば少しでも涼しい所が望ましい。
そうすると、北海道か東北。行く機会の少なさという意味では、東北のほうがむしろ遠い。まとまった休みで行くには都合が良い。
青森には昨年行ったところだから、別の県が良いが、何か取っ掛かりがほしい。
そこで思い浮かんだのが宮沢賢治のという作家の名前だった。詩に好きなものも多く、以前から親しみがあった。
そんな賢治の生まれ故郷はどんな場所なのか、興味が湧いた。
今年は岩手県に行くことに決めた。
神戸空港
ありがたいことに、神戸空港から花巻空港までFDA/JALのコードシェア便が運行されている。
これを利用しない手はない…というよりむしろ、この直行便の存在があったからこそ、岩手県行きを思いついたとも言える。もしこの便がなければ、宮沢賢治の名は私の脳裏に眠ったまま、日の目を見ることはなかったかもしれない。
神戸空港は好きだ。ポートライナーの混雑具合には辟易するが、それでも三宮から15分程度で着くというアクセスの簡便さと、何より空いているのが良い。(2025年4月に国際線が就航し、それ以降どうなっているのかは知らない。)
2022年には空港内にミニチュア写真家・田中達也氏による常設ミュージアム「MINIATURE LIFE × KOBE AIRPORT」がオープンした。、これも個人的には見どころだ。
国内線とはいえ、フライト直前はどことなくナーバスになるもの(私だけかもしれないが)。そんなささくれだった神経を、彼の作品の可愛らしさがほっと緩めてくれる。

これがイーハトーブ
神戸空港を発って約1時間半。乗客を乗せた機体は、花巻空港への着陸態勢に入った。
眼下には、すでに岩手県の山々と平野、そして街の姿がずいぶんと迫っている。
「ここが、イーハトーブか…」
そんな言葉が、ふと口をついた。
イーハートーブというのは、賢治が故郷である岩手県をモチーフにして創造した理想郷である。
岩手県の主要都市――賢治の生まれ故郷・花巻や、盛岡、北上、奥州などは、いずれも南北方向に広がる北上盆地の中に、連なるように位置している。
この北上盆地は、西を奥羽山脈、東を北上高地に挟まれた広大な平野部だ。
のびやかに、牧歌的にひろがる田園地帯と点在する都市群。その向こうに、まるで壁のように山々がそびえている。
このような岩手県独自の地勢から、賢治は「俗世から隔てられた理想郷」を紡ぎ出したのだろう。そして今、私も同じ景色を見て、彼の心の動きを追体験することになったのだ。
着陸のずしんとした衝撃が体を貫いた。いよいよ、理想郷に足を踏み入れるときが来た。
